令和1年産の小麦から数えますと、約3年前の平成28年産の、小麦の収穫も間近となった時期に当別町ではなまぐさ黒穂病が発覚いたしました。

当時の事はよく覚えていまして、良い対応策というものがない為、なまぐさ黒穂病が発覚した場合には、生産者にとって非常に厳しい対応を求めてしまう内容になってしまいました。

結果として、なまぐさ黒穂病というものが非常に恐ろしい病気となり、かつ土壌伝染の可能性があることから、とてつもなく恐れられました。

当時の収穫時期の生産者の皆様の、「もし自分もなまぐさ黒穂病が発覚したら」という心配は尽きる事がなく、かつ有効策がほぼないといったことで、播種してから翌年の収穫まではその存在を忘れる事がなかったことだと思います。

そのため、できる事をやらなくてはならないということから、種子はベフランシードによる消毒に変わり、ほとんどの方が購入種子による播種を行いましたし、当時登録がおりたチルト乳剤も散布していきました。

 

そういった努力もあり、他の要因ももちろんあるとは思いますが、なまぐさ黒穂病はすっかり影を潜めました。

現在はなまぐさ黒穂病の研究も進み、当時非常に恐れていた本州の菌「カリエス(Tilletia caries)」ではなく、北海道独自の菌として「コントロベルサ(Tilletia controversa)」であるということも発表されました。

そして菌の形態がわかることによって、防除の適期というのもわかってきます。

コントロベルサの特徴としては、厚膜胞子の発芽適温が3~8℃とされており、特に道産菌では適温が5℃とされています。

さらに発芽までは3~10週間を有すると言われています。

そして胞子の発芽には光の要求性が高いことから、土壌表面の胞子が感染に影響し、土中の胞子はほぼ感染に影響しないと推察されています。

この土壌表面の胞子の発芽は積雪前の低温と土壌の多湿によって促進されるため、小麦の2~3葉期の感受性が高いとされています。

※参考資料の見解です。

 

こういった菌の形態が判明していくことで、薬剤の防除散布時期も、それに合わせて効果的に散布できるようになります。

この資料の中ではチルト以外にも効果が認められているような記述もございますが、散布登録が降りているかはまた別の話ですので、効果の高い剤や、他の病気も併用して散布できるような農薬の登録が進んでいけば、非常に使いやすく防除体系にも組み込めるだろうなと思います。

 

また、非常に前段が長くなりましたが、そういった背景もあり、チルト乳剤のなまぐさ黒穂病への登録散布時期が今年から変更になるということです。

今までの登録から変更になり、「根雪前」に変更が行われました。

この変更がこのコントロベルサの生育に合わせた変更なのかは別の話ですが、北海道のなまぐさ黒穂病に合わせた防除体系の一環としては非常にいいことだと私は思います。

逆に言うと、一体どうすればいいのか、何が有効であるのか、まったくわからない状況下では、色んな情報が錯綜して、やるべきことがわからなくなってしまうので、噂話をそのまま聞き入れるのではなく必要な情報は本当なのか確認することが重要だなと思います。

今、新型コロナウイルスも非常に猛威をふるっていますが、情報化社会であるがゆえに、色んな情報を切り取って受け取る事で、あやまった認識で行動してしまう危険があります。

そういった危険が、このなまぐさ黒穂病の発生当初はとても大きかったですから、今後その経験を生かして、同じような状況下でいかに最善を尽くせるのか、注意していきたいと思います。

話が大分それてしまいましたが、そういった薬剤の登録内容の変更が今年はございますので、それを踏まえて今年のなまぐさ黒穂病防除について再度検討してみるのもいいかと思います。

 

今回の参考資料『北海道におけるコムギなまぐさ黒穂病防除について』

https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/pdf/no200/200_012.pdf